従来、ソーシャルレンディング事業者は融資先の企業や団体などの名前などを伏せていました。ところが、2019年3月に、金融庁がソーシャルレンディングの匿名化の解除を発表したことで、開示が可能になりました。

ただし、あくまでも匿名化の解除であって、開示しろとの命令ではないため、融資先の情報を開示するかどうかは、事業者の判断次第です。実際に、融資先の情報を完全に開示している事業者はほとんどありません。

融資先の匿名化の背景にある匿名組合契約

元々、匿名にされた背景には、ソーシャルレンディングの利用者における「貸金業者」としての資格の問題がありました。法律上、第三者にお金を貸付て利息を得るには貸金業の資格が必要であり、貸金業の資格を持っていない一般市民の利用者が貸付を行うことはできません。

そこで、一般市民の利用者でも融資ビジネスに投資できるようにしたのが、「匿名組合契約」です。匿名組合契約とは、「当事者の一方(一般利用者)が相手方(ソーシャルレンディング事業者)の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益が分配される」ものです。

つまり、利用者にとっては「出費」であり、貸付ではありません。目的は「利益」を得ることであり、「利息」を取るわけではありません。従って、匿名組合契約であれば貸金業には該当しないため、貸金業としての登録の必要がありません。

また、事業者は資金を貸出す際に、借り手の企業に資金の貸出者を知らせません。つまり、出資者が「匿名」のため匿名組合といいます。

しかし、実際には、匿名組合契約は「借り手企業の匿名化」とは全く無関係です。それでもあえて匿名にしているのには、以下の理由がります。
1.実質的な貸金業となる懸念
借り手企業を開示すると、一般利用者がソーシャルレンディング事業者を経由して企業に資金を貸出す形になり、実質的に貸金業と代わりが無くなるという懸念があります。

2.借り手企業との直接接触
借り手企業を開示すると、一般利用者が借り手企業に直接資金を貸出したり、貸倒れとなった時に借り手企業に直接取立てを行ったりする違法行為を防ぐ目的もあります。

商法では、匿名組合員はソーシャルレンディング事業者の業務を代行したり、第三者に対して権利を行使したりすることができないと定められています。

匿名化廃止によるメリット

借り手企業の匿名化には、法律に抵触することを防ぐというメリットありますが、逆にソーシャルレンディング事業者による一般利用者の資金の流用や隠匿の危険性も内在します。

融資先の匿名化を廃止することで、以下などの改善が見込まれます。

1)透明性が高くなることで、投資における安心感や信頼性が増します。
2)開示情報が増えることで、ファンドの選択範囲が広がります。
3)詐欺まがいの事件が減ります。
4)情報開示が義務ではないため、事業者の姿勢が明らかになり、事業者を評価しやすくなります。
5)業界全体の健全性が向上します。